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ダイヤモンドダスト・クルセイダーズ ◆d4asqdtPw2 生命の意味。 少なくとも俺たちが生きとった世界では、そんな事で悩むやつなんざぁおらへんかった。 部活のレギュラー争い。 期末試験の範囲。 週末のデートのプラン。 俺の周りの『健全な学生サマ共』はそんなもんばっかで悩んどった。 俺や『アイツ』みたいな『不健全な高校生探偵』(アイツは途中から小学生になってもうたけどな)でさえ大差ないわ。 殺人現場に居合わせる度に、『誰が誰を殺した』かなんて事を、出来のええ頭をフル回転させて悩んどった。そんな毎日や。 だから少なくとも俺たちの世界では、生きることに意味なんかあらへん。 目の前に広がる無理難題をなんとかするので精一杯やった。 誰もが『生きること』それ自体に四苦八苦しとったんや。 それでも死にたいとか思っとるやつなんかは(少なくとも日常を生きる俺の視界には)おらへんかった。 生きていることは当たり前のこと。 みんなそう思いながら、人間サマの楽園である大都会を優雅に歩いとったって事や。 いや流石に、あり得へん数の死体をみてきた俺や『アイツ』はそうは思っとらんかったで。 特に『アイツ』は結構な危ない目に会うてきたらしいからのう。 せやかて、そんな俺たちでも『生きること』の意味なんざ考えへん。 そんなもんは逝ってもうた後でも考えられるからな。 閻魔はんに金棒を突きつけられながら問い詰められてから考えればええんや。 そう思っとった。 それが間違いだったとは言わへんで。 仕方のない事や。平和やったんやから。 しかし、今の俺はそれが許されない状況におる。 この生命の意味を考えんとあかんねや。 勿論、『人はなんで生きとるんやろ?』とかいう哲学はパスや。 そんなもんはモッサイ髭を生やしたジジイの暇つぶしに任したらええ。 俺の議題は『何で俺が残ったか』。 (殺人鬼であるものの)吉良はんと、(誤殺であるものの)三村はんを殺した俺。 タバサでなく、アミバはんでなく、ブラボーはんでなく、劉鳳はんでなく……工藤でもなく! ……なんで俺なんや? 無力な両手……血に染まった両手、こんな最悪な両手を持つ俺が……なんで残っとる? 『偶然殺されなかった』なんてそんな意味のない答えは求めとらん。 『神の意思なのだぁ~』とかそんなお花畑な答えも聞きとうない。 『結果』や。俺が欲しとるのはこの生命の『結果』や。 タバサが劉鳳はんを守ったように、ブラボーはんが劉鳳はんに希望を託したように、劉鳳はんがラオウを殺したように、アミバはんが吉良はんの正体を残してくれたように。 工藤が信念を貫いたように! 生命に意味を与えるための『結果』が必要なんや。 俺が奪ってもうた命に恥じないような『結果』を、この無力な俺が残さなあかんねん。 この俺に何が出来る? 少なくとも、無害な人を殺してもうたんやから、信念なんてもんを貫く資格はあらへん。 ならば、この殺し合いをぶっ壊すために何かせぇへんとあかん。 波紋もアルターも無い俺が、借り物のスタンドと借り物の武装錬金と借り物の銃で。 ……何が出来んねん。 村雨はんや覚悟はんが必死に戦っとる間に、部屋の隅っこでかがみはんらを守っとることくらいしかできんやろ。 もしかしたら、かがみはんの方が俺なんかよりも強かったりしてな。 ……それは流石にないとしてもや、俺なんかが戦ったって邪魔なだけや。 仲間たちの足を散々引っ張るだけ引っ張って、アッサリ死んでまうのがオチや。 つまるところ、俺は『何もしない』のが一番なんやなぁ。 それでええんか? ……ええわけないやろ。 じゃあどうしたらええんや? どうしたらええねん?! ……何で、何でこんなに役立たずやねん。 畜生……! ちっくしょう……! 「……とり! …………オ~イ服部ちゃーん?!」 鼓膜を大きく揺らしたのは、飄々とした声だった。 遠慮の無い声量に、鼓膜がキィィンと悲鳴を上げた。 首を傾け視界を右へとずらせば、ジョセフの大きな口が待ち構えていた。 「服部ちゅわ~ん? シカトですかぁ? そんなに冷たくされたら僕チン泣いちゃう!」 さて、うるさいのがいたのを忘れていた。 思考は中断。結論は後回しにしなければいけないらしい。 だが、殺し合いの緊迫感を盛大にブチ壊すような彼のこの軽さが今は少しだけ嬉しい。 これも彼なりのやさしさであるのだろう。 落ち込んでいる自分を見かねて、ワザとふざけてくれているのだろう。 「スマンな、ジョジョはん……」 「なんだよ服部~。……もしかして生理か?」 前言撤回。確実に天然だコレ。 なんと言うか……コイツは大物になりそうだ。 絶対に『隠者』になんかはならない。 大統領になって国をソッコーで滅ぼすのとかがお似合いだ。 「はぁ……取り合えず、独歩はんとこ戻ろかー……」 何にせよ、ここでボーとしているのは時間の無駄だ。 パピヨンに会いに行った連中も、そろそろ戻っているころだろう。 今は一刻も早く、合流しなければ……。 「それなんだけどよ~。……ちょっと俺の地図見てくれ。こいつをどう思う?」 ジョセフはゴソゴソと汚らしいデイパックに手を突っ込むと、中からグシャグシャの地図を取り出す。 「すごく……地図やな……」 「地図なのはいいからよォ~、このままじゃ独歩のところに辿り着けないんだよなァ~」 ジョセフが地図のE-2エリア、自分達の集合地点を指差した。 トントンとジョセフの人差し指が叩いた地点には、「9 00」の文字。 「あぁ……せやった。禁止エリアか……」 失念していた。集合場所がもうすぐ禁止エリアになるのであった。 主催者のささやかな嫌がらせだろうか。全くくだらない事をする。 とはいえ、まさか独歩も大人しく待っているわけにはいかないだろう。 参ったな、どこへ移動すればいいか検討もつかない。 適当な施設へ電話でも掛けてみるか……。 「おい……服部……」 俺が思案に暮れていると、ジョセフが多少震えた声を発しながら上着の袖を引っ張ってきた。 さっきまでの明るい声とは違い、まるで亡霊でも見たような声だな。 彼の視線を目で追う。俺のいた世界では、どこにでもある神社の風景だ。 照りつける太陽は昼に近づくにつれて、この地上へと熱を送り続ける。 石段の上を這い回る風が、大量の落ち葉を舞い上げる。 そして神社の入り口(俺らから見たら出口)に悠然と立つ鳥居。 その鳥居の下に佇む男が見える。 逆行が邪魔をしてよく見えない。 それでもなんとか目を凝らす。 銀色の髪。鋭い目つき。覚悟から聞いた通りの服装。 「そんな、アホな……」 死んだはずの男が立っている。こちらを見つめている。 太陽が一番元気な時間にも拘らず、そこには『亡霊』が平気な顔をして立っていた。 だが俺の目に映った彼は『亡霊』と言うより『鬼』、いや違う……『死神』。 そう、何故だか俺には赤木しげるが『死神』に見えて仕方が無かった。 ◆ ◆ ◆ 「ここを進んだ先に強化外骨格が眠っているはずだ」 「うおー……なんか緊張してきたでー……」 手のひらに滲む汗を拭いながら、社に続く石段を一歩一歩進んでいく。 この社に近づいたものの体調を狂わす、あの憎たらしい首輪の制限からは解放されたはずだ。 それにも関わらず、社から発せられる圧迫感が胸を締め付ける。 この禍々しさは、オーガのもつソレ以上か……。 そう、この先には、この殺し合いの全てを支配している強化外骨格がここに眠っているのだ。 あの後、つまり俺たちが赤木を発見した後の話をしよう。 ジョセフは一応赤木と面識があるらしかったが、それでも俺たちは赤木のことは殆ど知らなかった。 ちょっと前に覚悟から彼の名前と背格好を聞かされた程度。 放送で赤木の名前が呼ばれてからは、(ただでさえ少なかった)彼の情報は俺たちの記憶の隅の隅へと追いやられていた。 死んだ人間の背格好など不要な情報だ、と俺の脳が判断したのだろう。 だから始めのうちは、『あれ』が赤木しげるだとは信じられなかった。 放送の通り赤木は死亡していて、あそこにいるのは『別の誰か』だと疑っていたのだ。 俺たちが彼が赤木しげるだと信じることができたのは、彼が首輪をしていない事に気付いたから。 首輪がない事実は、『彼が生きているにも拘らず、放送で名前が呼ばれたこと』を裏付ける証拠となったのだ。 首輪の解除法は、俺たちがこの殺し合いが始まってからずっと求めてきたものの1つ。 嬉しくて思わず叫びだすところだったのだが、俺だってそこまで馬鹿じゃあない。 主催者が彼の生存に気付いていない。 そんな事実くらい、赤木の首輪がないことを確認してから1秒で把握した。 赤木は数時間前に覚悟たちとも会っているらしく、俺たちはすぐに神社へと引き返して情報交換をすることにした。 俺たちが赤木しげるから入手できた情報は少なくない。 『伊藤博士』なる人物からの手紙。そこに書かれていた首輪の情報。神社の社に眠るもの。 大首領を殺す作戦。エンリコ・プッチなる人物。他にも様々な情報。 つまり、赤木が先ほど覚悟たちとしていた筆談の内容を、そっくりそのまま伝えられたのだ。 粗方情報交換が終わると(とは言え俺たちが赤木に与えた情報は皆無と言っていいが)、赤木は意外な提案を持ちかけてきた。 強化外骨格の眠る社の探索。 なんでも、彼が大首領と接触した彼はその後、神社の社にワープさせられていたらしい。 そこに眠っていたのが、強化外骨格。 柊かがみから伝えられた通り、社にはこの殺し合いを支配する鎧が祭られているようだ。 そして赤木は『大首領を殺す方法』を確かなものにするために、社の中で確認したい事があるという。 そこで、俺たちに同行して欲しいと提案してきた。 社の中を見ておきたかった俺にとって、この提案は願っても無いものだった。 先ほど俺とジョセフが決行した、社への侵入作戦が失敗に終わっていた。 これからのプログラム脱出作戦を立てる上で、社へ進入することは必要不可欠であると言えるだろう。 赤木が社に近づいても俺たちのように体調不良を起こさないことから、この体調不良は首輪の制限であると考えられる。 幸い赤木には首輪を解除する技術と知識があり、この問題もなんなくパスできる事となる。 ただし、ここで赤木から1つだけ条件が提示される。 首輪を解除するのはどちらか1人だけ。 一度に2人も首輪を解除したら、つまり『死亡』したら主催者が怪しむのではないか、と赤木が考えたからだ。 それならば、俺とジョセフのどちらか片方がいきなり死んでも、それは充分怪しいと思うのだが。 俺たちの間には何の火種も無いのだから。 とは言え、柊かがみに社の中を確認してきてくれと頼まれている。 この提案は断れないだろう。 それに首輪も解除してくれるのならば、こちらとしても万々歳である。 次に『どちらの首輪を外すか』だが、これは大した問題にはならなかった。 ジョセフが社の探索を辞退したからだ。 『俺にはめんどくさいことはよく分かんねーからな』だそうだ。 そんな訳で、ジョセフを見張りとして残し、赤木と首輪を外した俺は例の社へと向かったのだった。 「これが……!」 「ああ。これが強化外骨格だ……!」 俺の目の前に佇んでいるコレが……全ての絶望の元凶。 少女を貫いた弾丸も、青年を潰した拳も、全てはコイツから始まったのだ。 今すぐにでも破壊してしまいたい。 溢れ出しそうな怒りを、すり減った理性で必死に押さえつける。 (なんや……引っかき傷か?) 憎き鎧の中央部やや左側(こちらから見て右側)に小さな傷があるのが確認できた。 外部からの何らかの攻撃によって付いた傷だろう、服部は確信していた。 なぜならば、社の外壁も巨大な刀で切りつけられたかのように、崩れていた。 あの方角から何らかの攻撃、衝撃波のような攻撃がこの社を襲ってきたと考えるのが自然だ。 そしてその衝撃波はこの社の外壁を破壊し、強化外骨格にまで綺麗に跡を残した。 人間で言えばちょうど心臓に位置する部分に、小さな切り傷。 まるで『そこに成仏の光を直撃させろ』と言わんばかりの目印。 隣のアカギも同じことを考えているのだろう。その目線はこの傷へと伸びていた。 誰かが残したんだ。この傷を。 もしかしたらこんな小さな傷、役になど立たないのかもしれない。 この傷は意図的に付けたものではなく、誰かの放った攻撃が偶々命中したのかも……無意識の産物だったのかもしれない。 それでも誰かがコレを残したのは事実だ。 誰かの想いが、制限と言う壁を越えてここに届いたのだ。 この傷は、脱出の証だ。 この鎧を、このプログラムを終わらせる為の傷だ。 忌まわしいこの、鎧を……! 「……ッ!」 俺の敵意に呼応するかのごとく、鎧の放つ禍々しさが色濃くなってくる。 そのオーラはブワリと充満し、木造の社を瞬く間に地獄の釜の中へと変えてしまう。 額から滲み出す汗はが服部の黒い肌を湿らせる。 震えが止まらない。 正直に言って、俺はコレに恐怖していた。 それと同時に、悔しかった。 一瞬で「コレには叶わない」と悟ってしまったことに。 分かっている。俺が無力な事くらい。 それでも、仲間の為に何かできる事を探したかった。 だけど、コレは、自分のような人間が立ち向かえる代物じゃない。 一言で表現するならば、『災害』。 大地震や津波のように、一人の人間ではどうする事もできない『災害』だ。 テレビの前で次々と死傷者が増加していくのを見ながら、爪を噛むことしかできない。 この悔しさは、そんな感情に似ている。 自分じゃどうする事もできない。 仲間の為にできる事なんか、存在していない。 俺はただ、見ていればいいのだ。 仲間がコイツを倒してくれるのを、ただ見ていればいいのだ。 仲間が血を流すのを、ただ傍観していればいいのだ。 邪魔にならないように、ひっそりと。 それが俺が唯一、仲間の為に出来る事だ。 それが、2人の人間を殺してまで生き残った俺のできること。 生きる意味。 俺なんかが戦うなんて事、しちゃいけない。 だって敵の抜け殻を前にしただけでこのザマなのだ。なんとも情けない。 隣の赤木は眉一つ動かさないで涼しい顔をしているというのに。 こいつは、少なくともこの男の精神は、人間じゃない。 俺のようなただの人間じゃないから、戦う資格があるのだろう。 ただ震えてるだけの惨めな俺とは、違う。 それでも、俺がコイツに憧れと言う感情を抱く事はなかった。 コイツのようになりたいとは、微塵も思わなかった。 「さて、服部平次よ。唐突で悪いが、貴様に頼みたい事がある……」 目の前の光景を、俺は信じられなかった。 赤木が笑った。笑ったのだ。この状況で、笑ったのだ……! 鎧が放つ狂気と同調するかのように。 「な、なんや……?」 「仲間の為に、死んで見る気はないか……?」 俺が最初にこの男を見たときに抱いた印象は『死神』だった。 その幻想は、今ハッキリと現実という形で俺に突きつけられている。 今なら、この男が地獄から来たと言われても信じてしまうだろう。 「なん……やと?」 「大首領を殺す作戦、貴様にも伝えたと思うのだが、この作戦には1つだけ欠陥がある。 『強化外骨格の中の死者たち』がこの作戦を知らない可能性がある。 そこで、必要になってくるのが……強化外骨格内部とのコンタクト……!」 「それで、俺にメッセンジャーとなれと……」 皆まで言われなくとも理解できた。出来てしまった。 確かにそうだ。強化外骨格の中の死者に協力を仰ぐのであれば、それを伝える人物は必要不可欠。 そして、その為には……誰かが死ぬしかないのだ。 「そういう事だ。話が早いな」 「……俺からアンタに聞きたい事が3つある。 まず、死者がこの作戦を知らない可能性、つまり死者が『俺たちを見ていない』可能性はどのくらいや」 死者が強化外骨格の中からこの会場での出来事を感じている可能性は高いのだ。 エレオノールの夢に出てきた死者たちが、この殺し合いでの彼女の行動を把握していたからだ。 自分達が死んだ後のことを死者たちが知っていた事実。 これが本当なら、死者たちがこの作戦を知っている可能性はほぼ100%……! ただ、その時エレオノールは他人の記憶を大量に取得していた上に、その精神は激しい不安定状態に陥っていた。 『彼女の夢の中で死者たちが言った事』に彼女の妄想が付け加えられている可能性も否定できない。 その可能性はどのくらいか……。俺が赤木に尋ねたのはそういうことだ。 「そうだな。先ほど神社で貴様に聞いた、エレオノールとか言う女の夢の話を考えると……。 死者たちがこの作戦を知らない確率は……およそ5%」 俺の見立てと全く同じ数値だ。 死者たちがこの殺し合いの会場を見ていない確率を、俺も5%程度と予測していた。 5%の確率で世界が滅ぶ。 5%……高い。高すぎる。 勿論、そんな事を言うのならば、俺たちが勇次郎やアーカードに皆殺しにされる確率のほうが遥かに高かった。 だが、それらは『立ち向かうしかない危険』なのだ。 勇次郎やアーカードを避けて脱出を成功させるなど、絶対に不可能であっただろう。 これはそれとは違う。不可避の危険ではない。 これは『俺が死ねば簡単に0%に出来る危険』なのだ。 『俺の命と比較しての5%』は、余りにも高すぎる。 「次の質問や、何で俺なんや? アンタはどないするつもりや?」 本音をブチ撒けてしまうと、この質問には殆ど意味はなかった。 おれ自身も、この質問の答えはなんとなく知っていた、感づいていたから。 だからこの質疑には、答え合わせ程度の価値しかない。 「貴様を選んだ理由は4つ。 『他者への信頼が厚い』、『自分が死ぬことの重要度を理解できる』、『無力である事』……そして……」 赤木の顔が少しだけ歪んだ。 笑ったのだろうか、よく分からないが、少しだけ歪んだのだ。 それに呼応するかのように周囲の空気も淀む。 「『人殺しである事』だ……!」 ほら、やっぱりそうか。 自分でも分かっていた。俺以上の適任者はいない。 そしてこれは、俺という『生命』の最後のチャンス……! 仲間の役に立てる最初で最後の機会なのだ。 自分の『生命』の意味を考えた矢先にやってきた死神……。 なんというタイミングなのだろうか……。 まるで俺は、このために生かされたと言わんばかりのタイミングだ。 実際にそうなのかもしれない。 この化物が集まった殺し合いの中で、俺なんかができる事なんか無いに等しい。 それならば、これが俺に与えられた唯一の役割なのだろう。最初からこの台本が用意されていたのだろう。 「……アンタは…………?」 「俺は肉体だ……!」 これも予想通り。 コイツは自分が死にたくないが為に俺を自殺させようってわけじゃあない。 コイツはコイツで役割があるのだ。 この男にしか出来ない、大首領との賭けに勝利したこの男にしか演じる事のできない役割だ。 コイツじゃないと、大首領は降りてこない可能性すらある。 コイツはここで死んじゃいけない人間(?)だ。 「……最後の質問や……他の奴らには、俺が死んだ事なんて説明すんねん?」 ジョセフや覚悟、村雨たちは俺の事を仲間だと思ってくれている……はず。 『必要なんで死んでもらいました』じゃあ納得などするはずもない。 恐らく赤木の信用は地に堕ち、赤木の発案したこの作戦自体が成り立たなくなるかもしれない。 「『全て貴様が考えた』事にする……! 『死者たちがこの作戦を知らない可能性』を貴様が俺に指摘し、『自殺する事』も貴様が思いついた。 俺は貴様の自殺を止めることが出来なかった。それだけだ……!」 全く。アフターケアも万全か……。 コイツは狂っている。狂っているが、冷静に先を見通している。 『首輪を外すのは、俺かジョセフのどちらか片方だけ』と提案された時点で気付くべきだった。 こいつの話には裏があるのだ、と。 おそらく、ジョセフがこの社へ同行するのを辞退するのも分かっていたのだろう。 首輪を外したのも、この社で俺と2人きりになるため。 誰も介入できない条件を造るためだ……! 「さて、どうする? 服部平次……!」 こいつ、断れないのを分かってて訊いてきやがる。 死ぬのはあくまで俺の意思。赤木が強要したわけではない。あくまで『自殺』なのだ。 「答えなんか……決まっとるやろ……。 死ぬ……しかないやんか……」 悩む事なんか許されない。 これは俺が役に立つ最後のチャンスだ。 このままズルズル生き延びて、仲間の邪魔になるくらいなら。 『世界が滅ぶ5%』を無くす為に死んだ方が遥かにマシだ。 「そうか、それならば、『そんなに死にたいならば仕方がない』……!」 明らかに棒読みなセリフを吐き出すと、懐からナイフを取り出した。 あんなに『俺の意思での死』に拘っていたのに、最後は自分の手で殺すのか……。 まぁ、その方がありがたい。自分で自分にナイフを突き立てるのは流石に勇気がいる。 赤木の掲げたナイフが、正確にこちらに狙いを定める。 これで、終わり。 俺の人生は、俺の命はこれで終わる。 「……ハハハ……ホンマにコレで終いかい……」 乾いた笑いしか出てこなかった。 こんな終わり方なのか……。 2人を殺し、仲間に思いを託された俺の最期が……コレか。 情けない。 こんな形でしか役に立てない事が、悔しい。 (弱いって罪なんやな……) 俺がもっと強かったら、結果は変わっていたはずだ。 覚悟や村雨のような力があれば、もっと違う死に方もあったのに。 死んだみんなに恥ずかしくないような死に方もできたのに! 「安心しろ、貴様の死は必ず役立たせる。 貴様の仲間にも、そう伝えておいてやる」 役に立つ……? そうか、俺は役に立ったのか。 こんな俺でも、脱出の役に立てたのか。 死んでいった仲間達のように……。 仲間達の……ように……? 彼らは……タバサは、ブラボーは、アミバは、劉鳳は……。 彼らの死に様は……。 工藤の死に様は! そうか、そうだったのか……。 今になって思い出したよ。 「スマン、ジョジョはん。俺はここまでや……」 ナイフが躊躇無く振り下ろされた。 小さなナイフなのだろうが、俺の目にはギロチンよりも大きく見える。 死神の鎌。まさにそんなイメージだ。 銀を呈した刃は、ザクリと俺の肌を肉を抉り切る。 飛び散った血が数滴だけ、汚い床に赤い斑点を作りだした。 ◆ ◆ ◆ 後編
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「……やれやれ。面倒なことになったもんだ」 溜め息と共に紫煙を吐き出して、青年は手元の名簿に記された二名の知り合いと、そして倒すべき宿敵の名前を交互に見つめる。 青年の名は空条承太郎。その外見たるや古風な不良といった様子だが、事実そういった認識は間違っていない。彼は素行不良児。ただ、世間一般のそれらよりもクールで物静かな荒々しさを持つ男だ。 やや使い込まれたお気に入りの学ランに嫌味なほどの凄みを醸させる筋肉質な長身もまた特徴か。 この成りで高校生とは末恐ろしいものがあったが、承太郎の真髄は腕っぷしの強さに留まらない。 彼の背後より具現する、人型のオーラ。 傍に立つ者――通称『スタンド』。言ってしまえば超能力の類に分類されよう。 承太郎は自らのスタンド『星の白金(スタープラチナ)』の指でもって首の後ろ側をそっとなぞる。すると、ほんの少しではあったが違和感を覚えた。 成る程、確かに己の身体にも魔女の口づけなる悪趣味な細工は施されているらしい。 「あのガキ……子供のイタズラにしてもやり過ぎたな。拳骨程度で済むとは思わない方がいいぜ」 今まで戦ってきたスタンド使い達の中にも、どうしようもない野郎は数ほどいた。 ラバーソール、スティーリー・ダン、J・ガイル。 皆この手で、或いは仲間の手できっちりぶちのめしてやったが……今回の敵、あの金髪の少女のやったことはその中でも間違いなく頭ひとつ抜けている。 群衆を静める為だけに何の罪もない女の首を穿ち、悲痛な叫びをあげる男をわざわざ見せ付けるようなやり方で処刑した――最早アレを邪悪と断ずるのにこれ以上の根拠は不要だろう。 幸い参加者の中にはポルナレフ、そして祖父ジョセフの名が確認できた。 彼らと合流出来れば万々歳だが、何しろこの島だって狭くはない。最低でも夜明け……第一回放送、遅ければ一日中歩き回っても出会えない可能性だってある。十分に考慮して行動する必要がありそうだ。 しかし、承太郎の最大の懸念はそこではない。 空条承太郎という男は『やる男』だ。 いざとなれば一人でだって戦う覚悟はあるし、それで自分が遅れを取るなど有り得ないとすら思っている。過信でなく、事実として自分の力量を把握している。――その彼をしても、危惧せねばならない事項があった。軽視すれば大変なことになる確信があった。 「DIO……!」 DIO。 ジョースターの血筋と深く忌まわしい因縁の糸で結ばれた、まだ見ぬ邪悪の化身。 実際に邂逅したことこそないが、それでも奴がどれほどの存在かは風聞で知っている。 そして、『肉の芽』。善良な人間だろうと奴の走狗へ瞬く間に変え、おまけに自分のスタープラチナ程の精密動作が出来なければ取り外すことさえままならないという非道な能力……目下最大の問題がこれだ。 花京院やポルナレフの例を見るに、あれはこの殺し合いでまず間違いなく猛威を振るうに違いない。 危険は伴うが、どっちらけだ。 いつか討たねばならない相手なら、此処でケリをつけてやる。 大分短くなってきた煙草をそれでも吸い続ける承太郎の瞳に恐怖や臆病風に吹かれた様子は皆無。 鋼のごとく重厚な『覚悟』の光が、夜空に瞬く星々さながらに爛々と照り輝いていた。 ――承太郎は、そこで不意に振り返る。 なんということもない。単に地を踏み締める足音が聞こえたから、確認のため身を翻しただけのこと。 如何にスタンド使いとはいえ、撃たれれば死ぬ。銃弾など容易くスタープラチナは掴み取るだろうが、こんなゲームを考え付くような奴のことだ。何かとんでもない兵器を持たせていたって不思議ではない。 話が通じそうならそれでいい。 もしも殺し合いに乗った奴なら――適度に打ちのめして、無力化させて貰おう。 そんな、やや物騒なことを考えつつ他の参加者との初めての顔合わせに臨んだ承太郎。しかしながら、彼は少しばかりの拍子抜けを余儀なくされた。 第一印象は、くたびれた男。 スーツに身を包んだ姿は如何にも糞真面目なそれなのに、顔色は窶れて今にも命が尽き果てそうだ。 最初は殺し合いの恐怖にあてられておかしくなってしまったのかと思ったが、どうも違うらしい。 中年男性は承太郎の存在を視認すると、どう声を掛けるか迷うような素振りを見せた後、覇気のない声色で口を開いた。どこか自虐的ですらある空の笑顔と共に、喪失した者の哀愁をありありと漂わせて。 「……未成年の喫煙は、褒められたものではないな」 「警察か。どうも苦手な人種だぜ」 菊の紋を見て、軽口を叩く承太郎。 札付きの不良として恐れられる彼へこうして指図してくる人間と会うのは久し振りだったが、よもやこんなところで『久し振り』を味わうことになるとは思ってもいなかった。 言っても眼前の男だって、そんな教科書通りのルールをこんな場所でまで押し付けてくるつもりはないらしく。ふう、と溜め息を吐き空を見上げ――なにか、とても遠いところにあるものを見ようとしているような。不可思議な視線を虚空へ送っていた。 どのくらいの時間が経ったろうか。承太郎が二本目の煙草を吸い終え、足で吸い殻を揉み消した。 一服は終い。大体これからどうするかについても頭の中で纏まったし、後はもう行動あるのみだ。 「……娘が、殺されたんだ」 独り言のように、唐突に男性が呟いた。 承太郎はいざ歩き出さんとしていた足を止める。 赤の他人の身の上話になど然程興味はなかったが、承太郎には彼の言う『娘』が誰で、そしてどのようにして殺されたのか――心当たりがあったのだ。 「あんた――あの女の父親か」 「……ああ。私は夜神総一郎。あいつ……夜神粧裕の、父だ」 夜神粧裕という名前は知らない。 ただ、承太郎は粧裕の死ぬ瞬間を確かに見ていた。 首の刻印が一瞬瞬き、次の瞬間にはその首筋に大穴が開いてスプリンクラーのように真っ赤な血潮を噴き出し、虚ろに目を見開いたまま血の海に沈んだ屍。見せしめにする意図もなかったのだろう。彼女は単に喧騒を静めるための道具として命を使い潰された。 犠牲者と縁のない承太郎ですら、あの蛮行には静かな怒りが沸いてくるのを禁じ得なかったのだ。 それが肉親であったなら……どれほどの悲しみとやるせなさかは、想像に難くない。 「ここには私の息子もいる。正義感の強い男だ、きっと今頃は妹の仇を討つと言って行動を起こしていることだろう……我ながら頼もしい息子だ。こんなところでしか自慢できないのが、皮肉だが……」 「……それで? あんたはどうするんだ」 が。 総一郎に対する承太郎の返応はあくまで冷たい。 元々沈着な質なことを踏まえても、少なくとも肉親を失ったばかりの人間相手には辛すぎる態度だ。 むろん、彼とて理由はある。それは至極単純に、失望を禁じ得なかったからだ。 「悪いが今のあんたからは、ちっとも『闘志』ってやつが感じられねえ……警察サマ相手となりゃ不謹慎だの何だのと説教されそうなもんだが、これから首を括ろうと考えてる自殺志願者ってのはきっと、今のあんたみてえな顔をしてるんだろうな……と思うぜ」 「…………」 「俺はあのガキをぶちのめし、ついでに倒さなきゃならねえ敵もぶっ倒して此処を出る。――が、どの道あんたは生き残れねえだろうな。なんとなく、俺には分かるぜ。じゃあな」 主催者は許せないと思う。 下らない理由で殺された奴は気の毒だとも思う。 だが、その『気の毒な出来事』をいつまでも引きずって、燻っている奴に用はない。 端的に言って足手纏いにしかならないからだ。爺の愚痴に付き合うくらいなら、件の優秀な息子とやらを探し頼った方がどれほど堅実か。 ざくざく草木を踏み締めて、一人で遠ざかっていく学ランの背中。 暫し無言でそれを見送っていた総一郎だったが、やがて悲痛な声をあげた。 「……なら! 君がもしも私と同じ境遇に置かれた時、どうする……!」 「――、―――」 総一郎は情けないと現在の自分の醜態を自覚し、自嘲していた。 だが頭で理解できるのと、実際に行動へ移してみるのとではてんで訳が違う。 あと一歩、踏ん切りがつかない。 期待する総一郎に対し、承太郎は深く嘆息した。 てめー、これじゃあ本当に落第点だぜ……とでも言いたげに半身を翻すと、彼は鋭い眼光により力を強く込める。 「この手で、必ず仇をぶちのめして『裁く』。誰に何と言われようともな……そうやって、『納得』させて貰うぜ」 そうして返ってきた言葉は、真実夜神総一郎が最も欲していた『解答』に他ならなかった。 なくしたものは帰らない。どれだけ嘆き、哀しみに暮れ、錯乱したとしても、また愛娘があの愛らしい笑顔で微笑むことは絶対にないのだ。彼女は死んでしまったのだから。総一郎も、その死体を見た。 本来承太郎のような人間を取り締まるのが使命の身、故に決して褒められたものではなかったが、今の彼に必要なのはまさしくこういう教科書の規範を外れた『荒々しさ』であった。 バトル・ロワイアルは必ず破壊する。 それでもって、娘の仇たるあの少女を必ず捕らえ、しっかりと警察に突き出してやる……! 「ま……待ってくれ! 私も君に同行させてほしいッ」 「頼んでないぜ、引率なんてもんは」 「私は刑事だ。たとえ君が拒もうとも、私には君を守る義務がある」 「……チッ、やっぱり鬱陶しい野郎だぜ」 悪態をつきながら、しかしあくまで自分のペースは崩さずこの森を抜けるべく歩を進める。 後からついてくる夜神総一郎の顔を一度だけ見たが――完全ではないにしろ、ある程度迷いは振り切ったらしい。スタンド使いでもない一般人を、目の前で死なせてしまうのは寝覚めが悪い。 乗り掛かった船だ。第一あの餓鬼の望み通りに事が運ぶというのも癪である。 聊か鬱陶しいのは事実だが、当面の同行者として一応宜しくしなければならないようだ。 「……やれやれだぜ――」 学ランの青年とスーツの中年、なんともアンバランスな二人が夜の闇を往く。 【F-1/森/一日目-深夜】 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:健康 [装備]:マイルドセブン(煙草)@現実 [道具]:基本支給品、不明支給品1~2 [思考-状況] 基本:主催者を倒し、このゲームを終わらせる 1:不本意だが夜神総一郎と行動。 2:ポルナレフ、ジョセフとの合流は出来たらでいい。但し、DIOに出会った場合は覚悟を決める [備考] ※参戦時期はDIOの館に突入する前です 【夜神総一郎@DEATH NOTE】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品、不明支給品1~3 [思考-状況] 基本:主催者の逮捕。殺し合いの解体。 1:承太郎と行動。 2:月、及びLと合流する [備考] ※参戦時期は少なくともL死亡よりも前です 時系列順に読む 前:ソードフェイク・オフライン 顔晒し編 次:[[]] 空条承太郎 次:[[]] 夜神総一郎 次:[[]]
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職業[クルセ] [ふりっぐ]鯖 狩り場[アユタヤD2] 時間帯[休日20時~22時](例 平日昼間16時~18時) Base[94] Job[50] Str[59+7] Agi[9+2] Vit[70+9] Int[90+7] Dex[9+3] Luk[1+5] Flee[201] Hit[283] Cri[] ASPD[] 使用武器:[+5ホーリーアヴェンジャー] 使用防具:[イミュンマフラ・ロリルリ服・エギラ靴] 特殊装備:[月光剣・ハイオク盾・ウアーアクセ](睡眠MBとかヒルクリなど) 強化スキル:[リフレクトシールド1] 使用消耗品:[アイス400・ハエ100/30min] 所持スキル:[GX10・ペコセット・RS1] 経験値効率[討伐1セット/30~40min(時給に直して15m程度)] 金銭効率[](金銭狩場の場合) 前提として今のGX狩りには月光+反射がほぼ必須。 (GX10でもまともな火力にならないため) もち連打するおって人は知らない。 昔は旨かったらしい狩り場に行って見た。 基本は集めてGXだが、GXの性質上2匹以上同じセルに重なるとHit数が落ちる。 タムランはGX10を3Hitさせればほぼ倒せるので、 SP300使って大量に倒すかSP100で2~3匹程度落とすかの判断が大事かもしれない。 どちらにせよ30分で250終わるかどうか割と厳しいライン。 やはりMEやBB狩りのようには行かないようだ。 .
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彼らの世界は、彼らと、その母・早坂真由美の3人が総てだった。 「早坂家」は3人と1DKのアパートが総てだった。 父親は──… いない。 知らない。 分からない。 当時の遊びで秋水が一番よく覚えているのは、ケッコン式ごっこ。 ──健やかなる時も 病める時も ──喜びの時も 悲しみの時も ──富める時も 貧しき時も ──これを愛し これを敬い ──これを慰め これを助け ──死が二人を別つまで ──共に生きることを誓いますか? これに溌剌と答える桜花の横で秋水が恥ずかしげに答え、2人を満面の笑みの真由美が 両脇に抱きかかえるのが慣習だった。 「外は危ないから、出ちゃダメよ?」 秋水たちはいいつけを守り、終日ずっと、ずーっと家の中で暮らしながら、健やかに育っていた。 秋水は後に述懐する。 ──誓いの言葉の意味なんてよく分からなかった。 ──ただ姉さんと母さんが楽しそうだったから俺も楽しかった。 ──”死”とか”生きる”とか本当によくわからなかった。 ──だからその朝、母さんに何が起きたのか、俺は何も分からなかった。 そう。 彼は何も分からなかった。 桜花と秋水が3歳を少し過ぎた、梅雨のある日。 彼らの世界に決定的な異変が起こった。 朝起きると、いつも出勤するはずの早坂真由美が布団の中から動かない。 前々からその兆候はあった。 朝早くに出勤して夜遅くに帰宅し、秋水たちの成長と反比例して細くなっていた早坂真由美。 彼女は時折、眠くて体が動かない」とこぼしていた。 幼い秋水たちがそれを額面どおりの意味でしか理解できないのは当然だろう。 母をただのお寝坊さんとしか思わず、目覚めるのを待ち続けた。 目覚めるのを、待ち続けた。 雨音を聞きながら。 どこからか入ってきた2匹のハエの羽音を聞きながら。 どれ位経っただろう。 桜花が空腹を訴え出した。だが秋水にそれを満たす術はない。 仕方なく、彼らはケッコン式ごっこで時間を潰そうとした。 ハエが1匹、早坂真由美の顔の周りを飛び回り、やがて着地した。 彼女はあんぐりと口を開けたまま天井へ虚ろな視線を投げている。 瞳は、汚水のように光をなくしている。 見るべきものが見ればいかなる状態か分かるだろう。 ハエがもう1匹、止まった。更にもう1匹。もう1匹…… 一体その部屋のどこからハエたちは入ってきたのだろう。 絶望的なまでに密閉されていたというのに、ハエたちはどこから入ってきたのだろう。 置かれた状況を把握した後、秋水は生死の境をさまよいながらかすかに思った。 羽音は止まない。 雨の滴る艶やかな音をかき消して、秋水たちの周りを飛び続ける。 その中で目覚めぬ母の肌がみるみると血色を失っていく。 色だけではない。 形も、使い古されて湯にふやけた石鹸のようにだらしなく歪んでとろけていく。 黒い粒が部屋の中に充満し、耳障りな羽音が幾重にも鳴り響き始めた頃。 ついに早坂真由美は完全に張力を失い、崩れた。髪の束が抜け落ち、枕元にたまった。 異変。秋水は咄嗟に桜花の手を取ると、ハエの群れをつっきり家から出ようと試みた。 「それ」が阻んでいるとも知らず。 「外は危ないから、出ちゃダメよ?」 扉。 「それ」は十数本の鎖と十数個の錠前でがんじ絡めにされていた。開かない。 「それ」を秋水たちは必死に叩いて、助けを求めた。 「それ」の向こうの住民たちに声は届いたが、彼らは耳を貸さない。助けない。 彼らはせせこましい経験則から知っている。 子供を泣き叫ばす親の劣悪なる正体を。 おおよそ社会責務を負うには不適合でありながら、一時の快楽を餓鬼のように求め、その挙 句に、無目的に、子を作る連中は。 いたずらに分不相応なる面目に拘泥し、ひとたびそれが潰されれば滑稽な、しかしそれだけ に手に負えない屈折した怒りで生活を破壊しに掛かってくる。 そういうリスクをおってまで、子供を助ける理由が何処にある? 日々の生活に追われる者などに道徳はないのだ。 ただその生活を保つ事だけが目的となり、きらびやかな活躍など望むべくもない。 カップラーメン。 菓子パン。 缶詰。 スナック菓子。 惣菜。 缶ジュース。 ペットボトル入りの水。 みかん。 生の大根。 生のにんじん。 生のじゃがいも。 以上は桜花と秋水が命をつなぐために飲食していたモノである。 警察がようやく扉をこじ開ける頃には、彼らは衰弱しきっており、1ヶ月の入院を余儀なくされた。 ここで断っておきたい。 けして警察は桜花と秋水を助けるために現われたのではないという事を。 未成年者略取。 警察が早坂家に急行した理由であり、早坂真由美の罪状でもある。 彼女は、まだ乳児だった浮気相手の子供をさらい、自分の子として育てていた。 それが桜花と秋水。 彼らがなりゆき上助けられた後、マスコミのインタビューを受けたアパートの住民はこう答えた。 「いつも静かだったんで、子供がいるとは露とも」 実母は、秋水たちを激しく拒んだ。 「あんな女が三年も育てた子なんて もう私の子供じゃないわよ!!」 「よさないか 子供の前だぞ!」 「なによ 元はと言えばあなたのくだらない浮気が原因じゃない!」 「その話はもう済んだだろうが!」 まだ衰弱癒えぬ彼らの前で怒鳴り散らす「新しいお母さん」を見て。 まだ衰弱癒えぬ彼らを顧みようともしない「男の人」を見て。 助けに答えてくれなかったアパートの住民たちのコトを思い出して。 桜花と秋水は、世界に自分たちの居場所がないのを知った。 深い失意と不信に涙を浮かべる桜花の手を取り、秋水は病院からそっと抜け出した。 満月の下で、行くあてさえ分からず街を歩いた。 彼らの過ごした家(うち)は既になく、外は恐怖のみで助力は願えない。 夜の公園で落ちていたビニールシートを分け合うように羽織りつつ、秋水は桜花に聞いた。 「どこへいこうか?」 「どこでもいいよ。でも」 桜花は顔一面に熱をひりつかせ、生命の逼迫を告げる激しい吐息を辛うじて声にした。 「秋クンはいっしょにいてね」 極度の栄養失調は、幼い女児から最低限の抵抗力すら奪っていた。 「姉さん?」 冷えた夜気を浴びただけで高熱を発するほどに。 早坂真由美が「手本」を見せて、かつての飢餓状態で幾度となく覚えた死別の予感。 再来する激しい動揺の中で秋水は手近なガラス片を手にし、たまたま通りかかった1人の老 人を脅した。 果たしてその行為が運命に対し、幸か不幸、いずれの効能で作用したのかは今となっては 分からない。 見事な白スーツをまとい、奇抜な蝶々型のヒゲを蓄えたその彼こそ、かつての蝶野爆爵…… Dr.バタフライだったのだ。 「おかねと! たべものと! おくすりを出せ!!」 「これはこれは。随分と可愛い強盗だね」 おどけた声とともに秋水の背後へ手が伸び、3歳の小さな体をあっけなく持ち上げた。 もがく秋水。 三日月のイラストに目鼻と口と燕尾服の長身を引っ付けたようないでたちの中年男性にそう される秋水は、奇妙な小動物のようで傍目から見れば滑稽でもある。 桜花の危機に何もできない自身の無力さに息を荒げる秋水。 彼を見たバタフライは薄暗い笑みを浮かべた。 「いい瞳(め)だ。程良く濁り始めている」 彼が見たのは、ドブ川が腐ったような、マグマとヘドロをごっちゃ煮にしたような負の感情。 「ほうら言った通りだろ。月夜の散歩は必ずいいコトがあるんだ」 ムーンフェイス。本名をルナール=ニコラエフというロシア人の台詞にバタフライは頷いた。 「ついて来い小僧。どうせその姿(ナリ)では行くあてもないのだろう」 「いやだ! 姉さんと一緒じゃなきゃ、どこへだって行くもんか!!」 「構わんよ。なら一緒に連れて来い」 タフライは事もなげに告げると、こう釘を刺した。 「ただしその姉にその瞳(め)が出来なくば、生き延びるのは難しいぞ」 桜花と秋水が、L・X・E(超常選民同盟)と呼ばれるホムンクルスの共同体に所属し、銀成学 園の生徒を食料にしようと画策したのは、その月夜がきっかけだった。 そして秋水は修復フラスコの中で眠るヴィクターを幾度となく見る。 心を鎖していたせいで、何ら関心を払わなかったかれの存在。だが。 その認識はのちに覆り、かれの娘のために秋水は奔走する事となる。 いずれ見(まみ)えるもう1人の男も1世紀前にそうしていたとは知るよしもなく。 回り続ける。 轍で結ばれし輪は断たるる事なく、永劫に。
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《知恵の花京院/J-036》 こういう感じでカード個別ページをつくってはどうだろうか? とりあえずコメント行にいろいろ書いといた カード名 知恵の花京院 カード種類 キャラカード 属性 幽 コスト 幽・幽 能力値 S 2/P 1/(T) 2 キャラ名 花京院 所属 人間 レベル ★ 登場タイトル スターダストクルセイダース レアリティ U 原作とのリンク 13巻185ページ目 タワーオブグレー戦でのひとコマである。
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栄光なる鎧亜の伝説 UC 光/水/闇/火/自然文明 (7) 呪文 ■シンパシー-ロスト・クルセイダー ■この呪文を唱えるコストが5より少ない時、このカードはハイブリッド:5を得る。 ■次の自分のターンの初めまで、相手のクリーチャーは攻撃もブロックもできない。また自分のクリーチャーはスレイヤーを得てタップされていないクリーチャーに攻撃できる。 作者:紅鬼 収録 伝説編(ロストゴッド・クルセイダーズ) 第一弾 評価 名前 コメント
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《スターストライク・ブラスト》 速攻魔法 自分フィールド上の「スターダスト・ドラゴン」と名のついたモンスター、または「スターダスト・ドラゴン」を シンクロ素材に指定するモンスター1体を選択して発動する。 選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズまで800ポイントアップし、 選択したモンスターがこのターン戦闘でモンスターを破壊して墓地へ送った場合、以下の効果から一つを選択して発動する。 ●:破壊したモンスターのレベル4ごとに1枚、自分のデッキからカードをドローする。 ●:破壊したモンスターのレベル×200ポイントのダメージを相手のライフに与える。 7月第四週パック「STARSTRIKE BLAST」で実装された《スターダスト・ドラゴン》系統のサポートカード。 攻撃力を上昇させ、さらに戦闘破壊に成功すれば破壊したモンスターのレベルを参照する追加効果を使用することが出来る。 特定のモンスターを指定するカードは基本的に扱いづらいものの、対象が縛りの緩いシンクロモンスターである《スターダスト・ドラゴン》なので比較的腐りにくい、と言えるだろう。 シンクロモンスターが一括で咲夜制限に指定されてからは、当然《スターダスト・ドラゴン》も1枚しか投入できなくなったため若干腐りやすくなったかもしれない。 攻撃力の上昇値自体は800と、《突進》より100高いだけでそこまでの数値ではない。(この100で助かることも稀によくあるが。) しかしこのカードには以下のとおりの強力な追加効果が備わっているため、他の《突進》や《オーバー・ゲイン》等のコンバットトリックを差し置いてでも投入してみる価値はある、はず。 一つ目の効果はレベル4ごとに1枚のドロー。 一般的な下級アタッカーで1枚、最上級のレベル8で2枚をドローすることができる。《TG ハルバード・キャノン》等レベル12のモンスターを破壊できれば3枚のドローになるが、そもそも滅多に出てこない上このカードの補助を受けた《シューティング・スター・ドラゴン》ですら破壊が難しいモンスターばかりで、殆ど3ドローを発動する機会は無いだろう。 二つ目の効果はレベル×200ポイントのバーン効果。 この効果を使用するのは、主に相手にトドメを刺せる時か破壊したモンスターのレベルが3以下の場合で、削り切れない場合はドロー効果で次に備えることが優先されることが多い。 トドメが刺せなくとも十分に手札が揃っている場合はこちらを使い相手へプレッシャーをかけるのもいいだろう。 原作において―~ 名前は遊戯王OCGのパック「STARSTRIKE BLAST」から。 このカードの対象にもなる《シューティング・スター・ドラゴン》がパッケージイラストに描かれている。 このカードについてはここも参照。 関連カード 《スターダスト・ドラゴン》 《シューティング・スター・ドラゴン》 《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》 《スターダスト・ドラゴン/バスター》 《セイヴァー・スター・ドラゴン》